トラッド/フォーク系というと、夫婦で仲良くアルバムを発表する場合が多いものですが、このティム・ハート&マディ・プライアもそうですね。もちろん2人はスティーライ・スパンのメンバー。この「Summer Soltice」('71)というアルバムは、「Ten Man Mop」と同時期でありながらも、かなりリラックスした内容。この時期のスティーライ〜は、アシュリー・ハッチングスの異常なまでのトラッドへのこだわりと、マーティン・カーシーという存在感のある男性歌手によって、実に硬派な世界観を作り上げていたわけですが、それとは別に、もっと穏やかなサウンドを、この夫婦は求めていたのかもしれません。アシュリーやカーシーが脱退した後のスティーライ〜がポップになっていったのも、当然といえば当然かも。


1曲目からトラッドではあるんですが、音も歌も、まろやかで落ち着いています。アルバム全体が、ジャケットの絵のように、丁寧に作りこまれた織物細工のようですね。アコースティック・ギター主体のドラムレスというシンプルなアレンジなのに、これ以上シンプルでも複雑でもダメになってしまうというギリギリのバランス感覚が素敵です。プロデュースは、この手のUKフォーク界では有名なサンディ・ロバートソソンによるセプテンパー・プロダクションものですが、このクレジットがあれば、まずはハズレなしと考えてよさそうです。シェラ・マクドナルドなんかもそうですね。


確かにスティーライ〜の2nd、3rdは問答無用の傑作ですが、つまりはあまりに完成度が高すぎて、聴く方も気合を入れなくちゃいけないような感じがするのです。でも、このデュオ作はサラっとして、いつどんな気分でも聴けます。「リボルバー」や「アビー・ロード」より「ラバーソウル」あたりが聴きたくなる感じといいますか。13曲でトータル32分ということひとつとってもいいじゃないですか。マディの素晴らしい歌唱はもちろん、ティムがストリングスをバックに歌う曲が実に英国的な雰囲気で最高です。フェアポートのサイモン・ニコル同様、かなりオッサン声ではあるんですが(笑)でも「UKのトラッド物はどうもなぁ〜」という方も、このアルバムなら大丈夫かもしれませんよ。お試しあれ。