ダン・ヒックスという名前の響き。チョビヒゲのポーカー・フェイス。脱力しっぱなしのテキトーなジャケ・イラスト。そして何よりも、その音楽。そのすべてが素晴らしいのが、この「It Happened One Bite」('78)というアルバム。ホット・リックス時代から、この人のアルバムにハズレなしだけど、このアルバムは、彼の全キャリアを通しても、最高傑作なんではないでしょうか。


でも、この人のアルバムって、傑作とか、そういう物々しい呼び方も、あまり似合わないような気がします。基本的には60年代にリバイバルしたジャグ・バンド・ミュージックを発展させて、そこにモダン・フォークやジャズ、ブルース、果てはラテンまでミックスした、もう何でもありの濃厚なゴチャマゼな音楽。なのに耳を通り過ぎていくのは、何ともとぼけた、シャレなのかマジなのかわからないような、脱力感溢れるグット・タイム・ミュージック。濃厚なのに軽妙。


オープニングの「Cruzin'」から、女性ボーカルと「フフ〜ン」と鼻歌のようなユニゾンを聴かせてくれますが、この人って、こういう女性二人に挟まれた「伊達男」という図式が、なんとも似合いますね。プロデューサーがトミー・リピューマで、エンジニアがアル・シュミットという超一流のスタッフに囲まれて作り上げたサウンドは、ポール・サイモン並に高度な音楽性ではあるはずなのに、ちっともアカデミックな印象じゃないのもエライ!