「わたしの3・11」という本で一番印象に残ったのが、作家・高橋源一郎の話でした。他の方々が、震災直後、あるいは、その後の自分たちの考えなどを述べている中で、唯一彼は「事」が起こる直前の出来事である、長男「レンちゃん」の卒園式の様子を延々と綴っているのです。直前には確実に存在していた、ささやかで、ありふれた、かけがえのないもの。


このアルバムを聴いて、その話に描かれてるような、震災直前のごくごく当たり前の日常の風景がフラッシュバックのように蘇ってきました。2009年にギターを初めて持って歌い始めた彼女。当初はギターが弾けずアカペラでステージに立った事もあったとか。何という強い意思。しかしそれは、笑っちゃうくらい無邪気で無防備な感じも。


誰もが普段の日常の中で経験している事なのに、誰もがそれを歌詞にしようと思わなかった。そんな世界観がここに。たとえば「高円寺にて」における「マクドナルドの窓際の席」というフレーズなど、聴いていてドキッとしてしまう。URCレーベルが似合いそうなシンプルなフォーク。しかし、歌い方に潜む日本的な節回しなどは、なかなか他にありそうでない雰囲気。