1曲目の「世界で最高の宝石泥棒」から溢れてくる何ともいえない多幸感。パディ・マクアルーンの体調不良を耳にして以来のいったいどうなっちゃうだろうという心配をよそに、まるでマイペースで送られてくるプリファブ・スプラウトの新譜。パディ自身の1人多重録音でありながら、まちがいなくこれは安心のプリファブ印。風貌はZZトップのメンバーみたいになっちゃったのに、歌声は80年代のあの頃のまま。


本来ベタになるべきサビのメロディーそのものをさっと回避し、美しいのにどこか曖昧なメロディーとコード進行のまま最後まで曲を進行していきます。全ての曲がというわけではありませんが、大事なのは曲全体を包み込むムードそのものと言わんばかりに。しかしいったんパディの歌声と曲作りにハマると、まるでたった3分の1曲1曲が映画のエンディングテーマのように感動的に響いてくるから不思議です。まさに究極のロマンティスト。


プリファブもXTCと同じで本国よりも日本の方が人気が高いように思われます。といっても、このアルバムは「アンドロメダ・ハイツ」以来のヒットアルバムとなったようです。名作を連発していた80年代を知らない新たなファンもその後に数多く獲得しているのでしょう。みんな待っていたのです。願わくばアンディ・パートリッジもパディのようにXTC名義で歌モノのアルバムを作っていただきたいなぁと願うのはファンの身勝手な妄想でしょうか。