どんな理由であれ、若すぎる死を迎えたミュージシャンのラスト作とあっては、感傷的な気分にならざるをえないもの。ましてや、前2作とは違い、すべてを装飾を削ぎ落としたかのようなシンプルな弾き語りによる独唱とあっては、「悲しみ」どころか「悲痛」さえ感じてしまう人も多いでしょう。


でもニック・ドレイクNick Drake)の「ピンク・ムーン」('72)を今、改めて聴きなおすと、ずいぶんと「暖かくて穏やかな音楽だなぁ」と思います。単純にアシッド・フォークとかで片付けて欲しくない。もうちょっと生きてヒットが出て評価されてれば、ボブ・ディランの音楽と同じぐらい新しい「スタンダード」になりえたはず。


メロウなのにジャジーとは違う独特のコード進行。美しいハーモニー。ボソボソとしてるのに意思のハッキリした低い歌声。まろやかなアコースティック・ギターの響き。そっけないほど短い楽曲(全体で28分!)。いち早くルーツ・フォークの枠を飛び出し、その後のネオアコやフリーフォークへの予兆も全部ここに。深すぎる名盤。