岡林信康が、本当にボブ・ディラン的だったのは、実はURC時代よりもCBSソニー時代だったりします。松本隆プロデュースによるコレと「誰ぞこの子に愛の手を」('75)は、昔から大好きなアルバムでした。初期の頃の表層的なアジテーションは影を潜め、どんどん自己の内面を深くえぐるような歌詞に変わってきています。


たとえばディランの「ナッシュビルスカイライン」がそうだったように、「ユダヤの英雄盗賊バラバ」や「見捨てられたサラブレット」では、発声方法まで変えて、演歌的なこぶしまわしまでするようになってます。その後、全編演歌の「うつし絵」('75)というアルバムまで作るだけあって、実に腰が据わっています。


しかし何といっても、7分にも及ぶ「ホビット」や「黒いカモシカ」で垣間見せる弾丸のごとく言葉を連射させる様は圧巻。スタジオライブの1発録音、3日で完了というアルバムだけに、ラフな演奏ながら、そのレアな感触が実にロックなんだなぁ。松本隆自身も、全曲でドラムを叩いています。