名曲ばかりのビーチ・ボーイズですが、やはり「God Only Knows」こそ「名曲レビュー」に相応しいのかな。今繰り返して部屋で流れているところですが、何度聴いても飽きませんね。


まずイントロが印象的です。要はベース。とにかく、これでもかというくらいルート音をハズしつけます。ルート音というのは、たとえば「C」のコードなら「ド、ミ、ソ」で、この場合ベースの弾く音は「ド」であり、これがルートです。しかし「ペット・サウンズ」のほとんどの楽曲では、「ミ」や「ソ」のような「3度」あるいは「5度」の音をベースがなぞって弾いています。ちなみにベースを弾いているのはブライアンではありませんが、ブライアンが完全にベースのフレーズを譜面などでベーシストに指示したものだと思われます。


クラシックでは常識的なのベースの動きでも、ロックン・ロールのレコードでこれをやった人は、ほとんどいないです。ブライアンはおそらくピアノで作曲をしているのでしょうが、手馴れたバッハの曲でも弾いているときに、左手のベースの動きを見て「これだ」と思ったに違いありません。ブライアンはベーシストでもありますし、フォー・フレッシュメンのようなアカペラの曲を耳コピしながら、自然に分数コードのような理論も身につけていたのでしょう。当然のように、これ以後のブライアン作品は「スマイル」も含め分数コードのオン・パレードなのですが、何故か70年代後期から分数コードは頻繁には、使われなくなりました。飽きたか?(笑)


出だしの歌詞も印象的です。「いつまでも君を愛していないかもしれない」という、ある意味で衝撃的なラブソングです。誰かを愛しているのに、もしかしたら「愛」というものは決して確実なものではないという不安と恐れ。切ない曲調に切ない歌詞。しかしラストのリフレインを聴くと、何故か「希望」が見えてくるようでもあります。


ブライアンの心の傷がどうしたとか、そういうことだけで名盤が生まれるとはボクは思いません。「ペット・サウンズ」が画期的だった多くの要因は、ブライアンが「新しい作曲法を見つけ、それを実現させた」という具体的な事実に他ならないと思うのです。さらに素晴らしい作詞家(トニー・アッシャー)と西海岸の腕利きのミュージシャン達による演奏、そして歌やコーラスを担当した他のメンバーの貢献度も忘れてはいけません。この曲などカール・ウィルソンの歌の表現力あってこそといえるでしょう。ちなみにペットのボックス・セットでブライアンによるボーカル・ヴァージョンも聴けます。興味のある方は聴き比べてみましょう。