これもジャズなのかといえばジャズかもしれませんが、むしろモリコーネが手がけたマカロニウェスタン風の映画音楽に近いものがあり、映像のイメージが膨らみます。マイルスはとりあえずトランペットで、あたえられた役柄を着実に演じきっていますが、監督は何といってもギル・エヴァンス


ミュートやホルンの積み重ねで、複雑なハーモニーを進行させながらも、あくまで中心はマイルスのトランペット。そのアレンジのバランスが見事。幾層にも重ねられた管楽器の柔らかいハーモニーの背後で、かすかにカスタネットがカタカタと鳴っているという見事な導入部から、気分は一気にスペインの荒地へ。


これこそ「ムード音楽」の極致ではあります。こんな音楽をステレオでじっくり聴く「大人の楽しみ」みたいなものが、この時代のアメリカのレコード業界の一つのジャンルとして存在していた頃の、幸福な一枚。そして、今もって遠い世界に連れてってくれるような豊かなイマジネーションを喚起させてくれる一枚。